発展途上のボクらとしては 〜蛇足
 



  *お兄さんたちからの逆襲編 Part.2。
   やっぱり いたるところ『R-18』です、ご容赦ください。




     2



手套を取り去り、ゆるく伸ばした人差し指の背の側で、
まるで少女のそれのよに すべらかな頬をするりと撫ぜれば。
あやされていると判っていての甘えからだろう、
甘い蜜でも舐めたよに含羞みつつ微笑って、くすぐったそうに身をよじる。
その様子が何故か猫のようなしなやかさ、ちょっと妖冶に映ったので、
体、柔らかいのなと囁けば。
そうでもないですよ、ほら手がつかないなんて
ソファーに座ったまま体を前へ倒すよに折って、
手を床へ伸ばして見せたのが、なんか
“ああ相変わらずに天然だ、此奴”と呆れたものの。
いやいやそれはただの建前で、
ほらねという訳知り顔、ふふーと笑ったところが
いっそう幼く、随分と可愛らしくて。
そのままこちらまで ほわんと腑抜けにされるのだから世話はない。

 『あ、こうすると付きますね。』
 『そうだな。』

何やってんだかと
呆れたような、それでいてやわらかな、
青鯖の苦笑交じりの声が聞こえたような気がした。

  “……つや消しだよ、ったくよっ

す、すみませんっ。



     ◇◇


それは澄んだ蒼穹の色、
それとも純度が高いあまりに蒼穹と同じく青みの濃い湖のような、
綺羅らかな青玻璃のような瞳をしている人。
貴石みたいな青は持ち主の意思の高潔さを示しているようで、
ただただ見惚れてしまうばかりだというに。
怒れば鋭く尖るその双眸を、今は緩やかな弧にたわめ、

 「明け方の空みてぇだな、見飽きねぇ。」

お前こそ宝石みたいな眸をしていると。
夜陰の藍色がその裳裾からじわじわと
暁の琥珀に取って代わられようとしている途中のような。
暁色とでもいうのだろうか、やや変わった色合いの、
夢見るような双眸をしていることを、
愛でるような慈しみの表情で見つめてくれて。
そんな瞳が座っている目許近くへと添えられた
品のいい手の親指の腹が、するりとそのまますべって
頬を愛でるようにくすぐるから。
ついついひゃあと肩をすくめてしまう。すると、

「此処。しょっちゅう引っ掻き傷作ってないか?」
「あ、えっと。」

過酷な荒事が多いのはお互い様だが、それでも怪我をするのは二流の証明。
現にこの美麗な彼は、敦同様に近接型の前衛でありながら、
どれほど劣悪な戦局に投じられても、異能を使えないという圧倒的に不利な状況下でも、
何時だってけろりとした顔で無傷で戻って来るのに。
虎の少年はといえば、ついついムキになるものか、
相手との間を取るような余裕まではまだないらしく、
結果として対手との接触も多く、小さな傷を結構こさえる。
そんな働きっぷりを見た訳でもなかろう、
それに敦には“月下獣”の付属であろう超回復という異能もあって、
気が張っている時ほどどんな大怪我でも塞がってしまう身。
それでもそのっくらいは見越せるぞという
艶な笑みを表情豊かな唇の端へ浮かべつつ、

「なのにこんな柔らけぇのな。ほら、こんなすべすべだ。」

するすると指の腹で優しく撫でる感触がくすぐったい。
ほのかにビブラートを利かせて低められた甘い声もまた、
耳元で聞かされるとくすぐったくてたまらず。
ひゃあと首をすくめれば、
ああほら俯くな、顔を見せなと
甘い声で叱咤してますますと自分のお顔を近づけてくる。
精緻に整った綺麗なお顔が見つめてくるの、
居たたまれなくて恥ずかしいですと視線を逸らせれば、

「そんな悪い子へはお仕置きだ。」

なんて、くつくつと含み笑いをしながら
撫でたばかりの頬のところどこへと
ついばむような軽やかなキスを落としてくれて。
そこまで間近になってしまえば、
温みも匂いもすぐの間近に添うてしまい、
愛しい人の双腕にくるみ込まれている現状に、
甘い眩暈が襲うほど。

「ん、ちゅうやさん。///////」

花と果実を合わせたような甘い香と、シャツ越しにひたりと密着した体温へ
虎の異能がなくとも意識がふらふらと覚束なくなる。
そんなまで翻弄されてるこちらだと判っていように、
焦ったように名を呼べば、
白々しくも“何だ?”とでも訊くかのように、
口許や目許の弧を深め、ンン?と小首を傾げる意地悪な人。
此処は中也の住まいとするフラットの一室で、
高層マンションの最上階に位置するため見晴らしもいいし、
逆に外から覗かれる恐れもまずはない。
そうは言っても 窓の外は日が暮れたばかりという刻限で、
陽こそ没したものの、空は暮色に染まりつつもまだ何とか明るいほうだろし、
室内も昼間の生活色の余燼を満たしているせいか、敦としては何とはなく落ち着かない。
大人しく座っていたこちらの片膝をまたぐよに、
そちらは膝からのし上がってきた中也であり、

「腕も細せぇな。」

暖房が効いているからと、それでもシャツの上へカーディガンを羽織っていたが、
そんな敦の腕を軽く鷲掴み、そのままするすると撫で下ろして確かめる彼で。
別段、咎めだてしているわけじゃあないのだろう、
むしろ甘やかすような声音の響きは変わらない。
そういう中也も巌のように雄々しくもごつい肉置きなわけじゃあない。
華やかな風貌に相応しく、腕も脚もすらりと引き締まっており、
洗練された所作と相まっていっそ嫋やかな印象を振りまくほど。
そうと言いたいような雰囲気なのを 少年の沈黙の中に察したか、

「何だ何だ、俺も変わらんと言いたいか?
 けどな、俺の腕はこぉんなに柔らかくはねぇ。」

掴んでいた手を下げ降ろした先、
やや骨ばってはいるが、むしろ幼い奔放さが不器用に宿る作りの手を取って、
選ばれた淑女のそれを捧げ持つよに、揃えた指でもってそれは丁寧に掲げ上げると、
指先へと口をつけ、

「な…っ。//////」

柔らかな感触とその行為を目の当たりにし、肩を跳ね上げる敦の様子へ、
接吻はそのまま、上目遣いな目線だけをやってにたりと笑うのだから、

 “…もうもうもう。//////”

慣れのないこちらを揶揄っているのだ遊んでいるのだと判っているが、
気持ちだけじゃあない、体の方までぞくぞくと追い詰められつつあって。
しかも、それをも中也はお見通しだろうから性分が悪い。
どんな脅威からも守るその代わり、その愛し子を翻弄するのも特権と、
及び腰な子虎を酌めども尽きぬ愛情でしとどなまでにまみれさせ、
何の戒めもないまま、奔放に甘やかしまくってやるのだという建前の下、
少しずつ大人流の睦み、愛淫に慣らしている最中なのであり。
ふるふるとかすかに震えるのも愛おしい、まだまだ幼い柔軟さを備えた身を掻い込むと、

「いい匂いすんなぁ。髪とか耳元とか。」

わざとに低めた声で紡げば、
顔は見えぬがゆるゆるとかぶりを振る愛し子が
こうしていても少しだけ覗くおとがいや頬の縁、首元などの肌を赤く染めており。
顔を覗き込まれぬよう、自分からぎゅうとくっついて来たことで、
どれほど含羞んでいるかは中也には顕著とさえ言えて。

 んん?汗臭いって? そんな匂いじゃあねぇよ。
 俺の匂い? そっか気に入ってくれてんのか、嬉しいねぇ。

くつくつと笑い、こちらの鎖骨辺りへ額を当てて
懐ろ深くへ顔を埋めている少年の頬に触れ、
そのまま掬い上げるように持ち上げつつ覗き込めば、
真っ赤になった頬や目許が潤みを増していて。
そこは中也もマフィアの端くれ、
身内には温厚でも敵対者には苛烈なまでのそれを持つ弑逆心を煽ったものの、
相手は身内どころか最愛の虎の子くんだ、
嗚呼 何て可愛いんだろうと、ともすりゃあ慈母のい抱く其れのような愛しさが込み上げて来て、

 「どうした、何か怖いのか?」

ぴるぴると震える様子は、だが怯えているのじゃあないと判っており。
くぅんと息を詰まらせつつも甘えるような声を出す彼へ、
目許も口許もやんわりとたわめ、蕩けるように微笑ってやり、

 「ほら、口をあいてみな。」

やっぱりだ、舌もこんなに甘い、と
柔らかな肉芽を翻弄し、
まだ慣れぬのだろう深い深い接吻で、口腔内を掻き回してやる
いけない大人だったりするのである。




背丈はミニマムでも心は寛大な、それは男前な五大幹部様。
組織というもの、ようよう判っているし、
作戦立案も出来、それなりに冴えたお人じゃあるものの、
所謂 合理的とか最適解とか、
理詰めで考えて対処した方が公平公正にすっぱり割り切れるとの方針がどうにも苦手で。
冷酷な処断も出来る潔さは、豪胆だから、責任を負う覚悟があってのそれであり、
どちらかといや情を優先しがちな、まだまだお若いのに義に厚い御仁であり。
まだまだ幼い恋人くんへの心遣いも万全で、
可愛くってしょうがないとはいえ
だからと言って無理強いはいかんと、
心のうちに在住しているはずな狼さんにさえ
紳士にと言い聞かせてそうな徹底ぶり…だそうだが。

 “うう〜〜〜〜。/////////////////”

確かに、ただただ一気に高みを目指してと
ぐいぐいと攻め立てるよな強引強硬なことはしないものの。
頬や髪に触れ、頤のラインを愛でながら、指先を優しく掬い上げ、
響きのいい甘いお声で囁き続け、意識の大半を押さえた上で。
懐へと抱き込めつつ 耳朶を吐息でくすぐり、
合間合間に指の股なんて意外な場所へキスを落としの、
いつの間にかはだけられてた胸乳をちろりとついばんだりして
それは巧みに翻弄はしてくる御仁であり。

 “やっぱり、大人なんだなぁ。//////////////”

気が付けば追い上げられている。
肌が火照ってたまらない、呼吸も苦しくなっていて。
気がつけば かすかな身じろぎさえ
高まりすぎた官能への刺激となっている巧みさよ。
体中が切なくて、もう我慢も限界だというところで、
察していように よしよしと額へ口づけ…ちょっとだけ焦らす意地悪をして。

 「ん、んぅ、あ……っ。」

いつの間に寝台に移ったのかも忘れた。
どくどくとざわめく血脈の鼓動を抱えた身なの、
隠しもしないで助けてという目をする愛しい子。

 「や…ぁ、ちゅやさんっ。////////////」

舌足らずにも訴える、拙い哀願に応じ、
息をも奪う勢いで深い深い口づけを授ければ、
蜜に接した瑞々しいその身が、早く早くと震えでせっつく。
自分の側から擦り寄るなぞと、
まだまだ えいやという思い切りの要ることだろに。
そうとされねば自身の意思ではもはやほとびぬか、
朝焼け色の瞳を潤ませ、甘い責め苦に耐えており。
くぅん…という、甘えるような
それでいて切なげな鼻声がこぼれかけたものの、

 「ん、よく頑張ったな。」

見ようによっては悪い顔。
だけれど、お前が欲しいという真っ直ぐな愛欲のせいで
導く側なのに我慢がとうとうほどけたまでのこと。
劣情にひくひく震える、まだまだ幼い雄に触れれば、

 「 っ、あ………っ!」

自身でも思わぬタイミングであったのか、
不意を突かれた態での短いが鋭い声が上がり、
ビクンっと硬直しかけた雄がそのまま精を吐き出した。

 「あ、あ、んぅ、あ…。//////////////」

真っ赤になって硬直する痩躯、
何処にもやらぬと何にも奪い去られぬようにとするかのように、
薄い背へまで回した腕でしっかと抱きすくめてやれば。
やがては萎えて、乱れた敷布へと沈み込むのが、得も言われず愛おしい。
とろりと浮いた目許を見下ろし、慎重に掻い込んだ柔らかな肢体。
熱を帯びたままの肌はほんのりと赤く染まり、
日頃にはない色香が妖麗に匂い立ち、

 「……う〜ん。」

もっと鳴かせてみたくもあったが、それでは自身の矜持に添わぬ。
結構我慢が利くはずな自分をこうまでぐらつかせるとはなと、
見る者があったなら何て切なく妖冶な笑みかと見惚れただろう、
意味深な表情含み、しょっぱそうに口許歪めて苦笑した中也だった。





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